航空機エンジニア KOH’s Room

航空機エンジニアが飛行機のことや思ったことなどを書いていくブログです。

飛行機の与圧について

飛行機の中は与圧されています。

与圧とは、機内の気圧を機外よりも高くすることです。
膨らませた風船の内部が機内で周りが機外のイメージですね。

上空は気圧が低いため、与圧をしないと乗客の皆さんが不快になったりします。
(低気圧の時に体調悪くなったりする人もいますよね。)

では通常、どの程度の与圧をしているのでしょうか??
地上と同じ1気圧でしょうか??

それであれば乗客の皆さんは、地上と同じ状態でいられますよね。
不快感も感じず、耳がツンとなったりしないはずです。

本当はそうしたいんですが、残念ながら1気圧にはしていません。
実際は0.8気圧程度に保っています。
航空法では8000ft(= 約2,400m)を超えない気圧に保つことが要求されています。FAR. 25.841 Pressurized cabin 参照)

風船で言えば、
パンパンに膨らませる(= 1気圧)のではなく、
そこそこ膨らませる(= 0.8気圧)状態のイメージです。

1気圧にしていない理由は、飛行機の構造の強度と関連しています。



風船を膨らませてから空気を抜くことを繰り返すと、
段々と風船がビロビロになってきますよね??

飛行機は上空で与圧して、地上では与圧しませんから、
「離陸して空を飛んで着陸する = 風船を膨らませてから空気を抜く」と同じイメージです。

飛行機も風船と同じように、
何度も膨らませて空気を抜くことを繰り返すと、
金属疲労でどんどん機体にダメージが与えられていきます。

膨らませる量が大きい程、そのダメージは大きくなります。

金属構造の胴体は、この与圧による疲労荷重が最も厳しいことが多く、
この荷重に耐えるために、部材の板厚をぶ厚くしているところも多くあります。

部材がぶ厚くなる ⇒ 機体の重量が重くなる ⇒ 燃費が悪くなる ⇒ 商品価値がなくなる
となっていくため、
乗客の皆さんに不快感を与えない程度の気圧を保ち、
かつ重量がそこまで重くならないように経済性も考慮して、
0.8気圧程度にしているのが現状なのです。