航空機エンジニア KOH’s Room

航空機エンジニアが飛行機のことや思ったことなどを書いていくブログです。

飛行機の設計で考慮している環境

今日は飛行機の設計にて考慮している環境について紹介します。

 

飛行機は赤道直下の国から極寒の国まで、

真夏の太陽の照り付ける地上から真冬の北極付近の上空まで、

様々な環境で運行されます。

 

設計時にはこれらを設計環境(温度・湿度)として定め、

設計環境下での安全性を保証すべく、試験等を通じて強度確認をしていきます。

 

一般的には、この設計環境は以下の条件がよく使われています。

  • 温度 : -54 ~ 82℃
  • 湿度 : 85%RH

 

逆に言えば、皆さんが飛行機に乗っている時、冬の上空では構造体は-54℃近くになっているということです。

反対に、真夏で駐機している飛行機の表面は、82℃ぐらいになっているかもしれません。

 

この温度差は設計上でも多くの問題を引き起こします。

代表的なものとしては以下2点が挙げられます。

  • 環境による複合材の強度の低下

近年、金属材料に代わって複合材料の適用がどんどん増えていますが、この複合材料はかなり環境に依存します。

引張側の荷重に対しては低温環境の方が強度低下が大きく、

圧縮側の荷重に対しては高温高湿度環境の強度低下が大きくなります。

これらの温度・湿度環境の変化による強度低下を加味して、設計をしていく必要があります。

  • 線膨張係数の異なる複数材料の適用による熱応力

一般的に物質は温度が高くなると伸び、温度が低くなると縮みます。

そして温度が1℃上昇した時にどれぐらい伸びるかは、材料によって異なります。

 

例えばこれまで飛行機の大部分に使用されてきたアルミニウム合金に対して、近年よく使われている複合材料(CFRP)は、温度上昇の際の伸びがかなり小さいです。

そのため、アルミニウム合金と複合材料をファスナで結合すると、片方は伸びたがるのにもう片方は伸びたがらないということで、その結合部に余分な力が発生します。

 

見落としがちですが、これもきちんと設計で考慮しておかないと、予期せぬ破壊に至ってしまいます。

 

 

ということで、本日は飛行機の設計で考慮している環境について紹介しました。

これは一般的な部位に限った話で、もちろんエンジン周りなどかなりの高温になる部分については別途それも考慮して設計しています。

 

 

 

飛行機内の空気は入れ替えられているのか??

新型コロナで世界中の航空会社が大変なことになっていますね。

 

飛行機の中は狭いですし、周りの人との距離も近いので、避けたくなる気持ちもよくわかります。

密閉空間で、空気の入れ替えもなされていないように思えますもんね。

 

そこで一つ質問です。

飛行機内では換気はなされないのでしょうか??

 

正解はNoです。

飛行機内の空気は常に入れ替えられています。

 

飛行機の客室は与圧されていて、機外から簡単に空気を取り入れることはできないので、エンジンからの高温・高圧の空気を取り入れ、それをちょうどよい温度に調整した上で客室内に取り入れています。

 

そして後方にアウトフローバルブというものがついていて、機内を適切な圧力に保ちつつ、空気を少しずつ外に出しています。

 

これらにより、飛行機内の空気は常に入れ替えられているのです。

換気がなされているからと言って、新型コロナウイルスに感染しないわけではありませんが、換気という観点では飛行機はそれほど問題ではありません。

 

余談ですが、もしこのアウトフローバルブが故障したらどうなるでしょうか??

エンジンからどんどん空気は入ってくるのに、出口がふさがれてしまい、まるで風船を膨らませる時のようにパンパンになり、最後は破裂してしまいますよね??

それを避けるため、アウトフローバルブのほかにもう一つ、セーフティーバルブというものがついています。

一定以上の圧力になった時にはセーフティーバルブが作用して、機内の圧力が以上に高まることを防いでいるのです。

 

構造設計者としては、このセーフティーバルブが作用する圧力が繰り返し胴体に作用したとしても壊れないように、設計しています。

飛行機の上下方向に作用する力

飛行機には主に以下の4種類の力が作用しています。

・推力 : エンジンによって生み出される、前に進む力

・効力 : 空気などから受ける抵抗

・揚力 : 主翼によって生み出される上向きの力

・重力 : 物体に作用する下向きの力

 

この中で揚力と重力(上下方向の力)に着目してみます。

 

まず重力はいいですね。

地球上では誰しもが感じているように、物体は地球の中心、すなわち下向きに引っ張られています。

飛行機が地上に駐機していようと、空を飛んでいようと、重力は各部材に作用しています。

 

常に下向きの力が働いているので、空を飛ぶためには上向きの力が必要です。

これを生み出しているのが主翼です。

 

窓から主翼を見ていると、

地上にいる時には地上と平行に近いぐらいの位置に主翼がありますが、

加速し、離陸していくと、上向きに反っていくことが見て取れると思います。

これは加速によって主翼に揚力が発生し、上向きの力が作用して、主翼自身も上に持ち上げられるためです。

 

 

主翼が上に持ち上がるということを構造的に考えると、主翼の下側の部材は引っ張られ、主翼の上側の部材は圧縮されるということになります。

 

反対に胴体はどうでしょうか??

 

胴体では揚力は発生しません。

単に重力が作用するだけになります。(今回は与圧荷重などは省きます。)

 

つまり胴体に対しては下向きの力が作用するだけで、こちらも構造的に考えると、胴体の上側は引っ張られ、胴体の下側は圧縮されるということになります。

 

そのため、主翼の上側や胴体の下側は圧縮に強い材料、主翼の下側や胴体の上側では引っ張りに強い材料を用いるなどしたり、部材の形状や配置間隔を変えたりして、各場所に合わせて最適となる設計を考えていきます。

 

普段、キャビンや外から内部の構造部材配置を知ることはできませんが、一枚、外板を剥いでみると、そういったことを考えて設計がなされているのです。

損傷許容性設計

損傷許容性設計という言葉を知っていますか??

飛行機は損傷許容性設計が適用されています。
難しそうな言葉ですが、読んで字の如く、『損傷』を『許容』しているのです。
簡単に言い換えれば、『傷などのダメージを許している(あっても大丈夫)』ということです。

飛行機の製造中や運行中などに起こり得るダメージを予め想定し、それらを考慮して設計しています。

車などの製品がどこまで考慮しているのかわかりませんが、安全性を第一に考えた設計の思想ですね。

航空機事故の歴史と共に、段々と改良されて、今日に至ります。

詳細はまた別の機会に書きます。
今日はこの辺で。

今後20年間のジェット旅客機需要予測

今後の世界のジェット旅客機需要については、ボーイングエアバスといった航空機メーカーであったり、国などが予測し、公表しています。

 

日本では、日本航空機開発協会(JADC : Japan Aircraft Development Corporation)が予測を出しています。

http://www.jadc.jp/files/topics/143_ext_01_0.pdf

 

今後20年間でジェット旅客機数は約1.7倍に増加すると予測されており、航空機業界が成長産業であることが伺えます。

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(JADC資料より抜粋)

 

特にアジアの人々に所得の増加による旅行需要の増加が大きく寄与していくとの予想です。

 

世界がどんどん身近になり嬉しい反面、個人的には本当にここまで伸びていくものかと若干疑っています。

 

IT技術の発達で他の国の人とも簡単にWeb会議やビデオ会議ができるようになりましたし、VRなども今後ますます発展していくと思います。

Web会議でFace to Faceと同レベルの会議ができるなら、わざわざ出張しなくともWebで済ませてしまうでしょうし、高いお金を払って何十時間も移動して海外の観光スポットに行かなくても、VRで行った気分になれれば十分という人も一定数出てくると思います。

観光客はまだしも、ビジネス客は段々と減っていくのではないでしょうか。

 

話を戻しますが、旅客機需要予測はボーイングエアバスでも少しずつ異なります。

需要予測と言いつつ、各メーカーの意図も反映されたものになっているんでしょうね。

それぞれ眺めてみると、それぞれが力を入れていこうとしている部分の違いが見られて面白いと思います。

気が向いたら見てみてください。

飛行機の与圧について

飛行機の中は与圧されています。

与圧とは、機内の気圧を機外よりも高くすることです。
膨らませた風船の内部が機内で周りが機外のイメージですね。

上空は気圧が低いため、与圧をしないと乗客の皆さんが不快になったりします。
(低気圧の時に体調悪くなったりする人もいますよね。)

では通常、どの程度の与圧をしているのでしょうか??
地上と同じ1気圧でしょうか??

それであれば乗客の皆さんは、地上と同じ状態でいられますよね。
不快感も感じず、耳がツンとなったりしないはずです。

本当はそうしたいんですが、残念ながら1気圧にはしていません。
実際は0.8気圧程度に保っています。
航空法では8000ft(= 約2,400m)を超えない気圧に保つことが要求されています。FAR. 25.841 Pressurized cabin 参照)

風船で言えば、
パンパンに膨らませる(= 1気圧)のではなく、
そこそこ膨らませる(= 0.8気圧)状態のイメージです。

1気圧にしていない理由は、飛行機の構造の強度と関連しています。



風船を膨らませてから空気を抜くことを繰り返すと、
段々と風船がビロビロになってきますよね??

飛行機は上空で与圧して、地上では与圧しませんから、
「離陸して空を飛んで着陸する = 風船を膨らませてから空気を抜く」と同じイメージです。

飛行機も風船と同じように、
何度も膨らませて空気を抜くことを繰り返すと、
金属疲労でどんどん機体にダメージが与えられていきます。

膨らませる量が大きい程、そのダメージは大きくなります。

金属構造の胴体は、この与圧による疲労荷重が最も厳しいことが多く、
この荷重に耐えるために、部材の板厚をぶ厚くしているところも多くあります。

部材がぶ厚くなる ⇒ 機体の重量が重くなる ⇒ 燃費が悪くなる ⇒ 商品価値がなくなる
となっていくため、
乗客の皆さんに不快感を与えない程度の気圧を保ち、
かつ重量がそこまで重くならないように経済性も考慮して、
0.8気圧程度にしているのが現状なのです。

飛行機は傷だらけで飛んでいる

タイトルを見てびっくりされた方もいるかもしれませんが、飛行機は傷だらけで飛んでいます。

細かい説明はまた今度しようと思いますので、今日は概要だけ。

飛行機は何度も何度も離陸して着陸を繰り返すので、疲労荷重(繰り返し荷重)に注意しなければいけません。

針金を何度も曲げると、曲げている部分に段々と傷ができてきて、最後にはちぎれてしまうアレです。

飛行機にも実は同じことが起きています。

繰り返し繰り返し、力がかかるところには傷が発生して、その傷は段々と大きくなっていきます。
何もせずに放っておくとその傷はますます大きくなり、最後には飛行機の破壊に至ってしまうのです。

そうならないために、定期的にエアラインなどが機体の検査をし、修理や部品交換などを継続していくことで、飛行機の安全性は保たれているのです。

また今度、もう少し細かい話をしようと思っています。

今日はここまで。